アラブ首長国連邦の首都・アブダビ。富裕層が多く暮らし、観光都市としても人気を誇るこの街で、日本の手仕事が光る逸品を世界の人々に紹介するのがJETRO(日本貿易振興機構)の手がける「紀伊國屋書店内『Ocha Café Sakura』におけるデジタルマーケティング事業 in アブダビ」。伝統工芸品の輸出を支援するプロジェクト「TAKUMI NEXT」の一環として、外国人が日本のどのような商品に興味を持ち、何を改良するとより手に取ってもらいやすくなるのかフィードバックを重ねることで、製造者とバイヤーを結ぶ取り組みです。
このプロジェクトで採用されたのがエッジAI映像ソリューション「AWL Lite」。商品をディスプレイする店舗にAIカメラを設置し、興味を持ったお客様の人数や滞留状況、属性の分析などを行うためにAWLがタッグを組みました。
今回は、本プロジェクトに参加したAWLのイザル アルミザン ワホノ、金澤健祐、三浦翔子に加え、プロジェクト全体を統括するJETROの太田尭久さんがリモートによるクロストークを展開しました。

 

IT展示会での出会いが、アブダビのプロジェクトに参画するきっかけに。

 

ーまずはプロジェクトの沿革を教えてください。

太田(敬称略、以下同) 2019年、JETROが手がける「TAKUMI NEXT」の商品を羽田空港で外国人観光客向けにテスト販売したのがスタートライン。海外の方がどのような商品に興味を持つのかを分析し、製造者にフィードバックするのが目的でした。2020年はコロナ禍により断念しましたが、翌年にはアラブ首長国連邦・ドバイの「ドバイモール」で同様の取り組みを実施したところ、非常に反響が大きかったんです。次のステップとして購買力のある層が多く、観光都市として多国籍の人々が訪れるアブダビでプロジェクトの深堀りを始めようと考えました。

ーAWLのエッジAIを採用したきっかけは?

太田 2021年、ドバイで開催された中東・アフリカ最大のIT展示会「GITEX FUTURE STARS 2021」の「ジャパンパビリオン」に日本のスタートアップとして出展していたのがAWL。それがJETROとの初めての出会いでした。実は、アブダビのプロジェクトをスタートさせるにあたり、当初はAIカメラを現地で調達しようと考えていました。ところが、工場管理や在庫チェックといったAIを扱う企業はあるものの、B to Cで顔認識をさせるようなサービスを提供し、なおかつ条件をクリアできる会社がなかったんです。そんな時に、GITEXに出展していたAWLの存在を知り、プロジェクトについてご相談したというのが大まかな流れです。

日本貿易振興機構(JETRO)ドバイ事務所 事業担当部長 太田尭久さん。プロジェクトの全体統括を担当。

上智大学を卒業後、JETROに入構。JETRO東京本部やJETROベンガルール事務所を経て、2021年よりJETROドバイ事務所に着任。事業担当部長としてデジタルマーケティング関連事業をはじめ、展示会や商談会のアレンジを担当。

ーAWLのスタッフはどう編成されたのですか?

三浦 普段は調達チームに所属し、機材や物品を管理しています。今回は初めての海外挑戦ということもあり、CHROの土田美那とモノをどう手配するか相談し始めました。すぐにメンバーが決まったわけではなく、必要に応じて適任者を人選していった形です。

金澤 僕はフロント寄りのプロジェクトマネージャーとして、顧客とエンジニアの橋渡しをする役割。加えて、「AWL Lite」を現地に設置する経験が社内の日本人チームの中でも一二を争うほど多く、テクニカルなサポートに長けていると自負しています。こうした経緯からプロジェクトに参加する機会に恵まれました。イザルは普段から僕とジョイントする機会も多く、言語の壁を乗り越えるためにも欠かせないメンバーでした。

 

国内と海外との違いによるハードルも、遠隔を活用したチームワークで突破。

 

ー海外では「AWL Lite」に使う機材も変えたのですか?

イザル エッジAIは日本と同じものを使っています。

金澤 当社が目指しているのは「腐らない…つまり古くならないAI」をベースに、誰でもどこでも使えるサービス。これまでは僕らやデジタルサイネージの扱いに長けた協力会社が導入をサポートするケースが圧倒的に多いのですが、個人的には顧客が簡単に設置できる「汎用性」を持たせることをミッションにしています。今回はそのための良いチャレンジになりました。

イザル アルミザン ワホノ

筑波大学大学院卒。AWL入社前はフリーランスのフロントエンド開発者として活躍。アブダビプロジェクトでは技術面を支えるプロジェクトマネージャーとしてメンバーを牽引。

三浦 チャレンジという点では、初めて海外で「AWL Lite」を導入するにあたり、中東の民族衣装が一つの壁になりました。頭部や顔を布で覆っている方が非常に多いため、きちんと認識できるのかどうかが未知数だったんです。

イザル とりわけ女性はビジャブと呼ばれる頭部を隠す布をまとっているため、最初は不安でした。ただ、フタを開けてみると、しっかりと認識できたのでホッとしました。

金澤 国内の事例とどれだけ差がでるのか危惧していましたが、「おお!しっかりデータが取れている!」という再発見がありましたね。

 

ー他にも苦労した点はありますか?

三浦 「AWL Lite」の機材自体は同じものですが、国内と海外とでは通信状況が異なるので、安定的に通信するための手法をイザルと一緒に随分と悩みましたね。

イザル 加えて、今回は国内のように現場に赴くことができないため、現地から送られるデータを頼りに遠隔でパラメーターを適切に設定するしかありませんでした。カメラの角度や光の入り方について、太田さんや店舗スタッフにも協力していただいたんです。

太田 商品を展示するアブダビの店舗は窓が大きな造りで、陽光がふんだんに差し込みます。加えて、現地は1年のうちでも雨が降る日は5日もなく、曇りの日すら珍しい気候。この違いもAIカメラにとっては大きな部分だったと思います。

三浦 太田さんにも多大に手伝っていただきましたよね。きちんと顔を認識できるようにカメラの前を何度も何度も通りすぎてもらったり、イザルからの「カメラをもう少し傾けてください」「もう少し離れてください」といった指示に応えていただいたり(笑)。

 

三浦 翔子

専門学校卒業後、接客業、住宅メーカーと異業種経験を経て、AWLに派遣社員として勤務の後、正社員として調達チームに入社。アブダビプロジェクトでは物品準備、顧客窓口を担当。

太田 私としては遠隔でも細やかにチューニングできるものなんだと面白い経験を積ませてもらいましたね(笑)。

三浦 普段の業務ではこうしたお客様との接点が少ないため、金澤をはじめとするフロントのスタッフがどう仕事を進めているのか知るための良い経験にもなりました。

金澤 実は、三浦にフロントの対応をしてもらうことで、現場の感覚を知ってもらうのも裏テーマ。僕自身もto doの整理やスケジュールの調整に専念できたので、非常に助かりました。

 

普段と変わらない仕事の手法が、海外でも通用するという手応え。

 

ー現在、プロジェクトの真っ只中ですが、「AWL Lite」のデータは問題なく収集されていますか?

太田 多くの定量データが取得できているので、出展企業にフィードバックする際の核になると感じています。加えて、現地スタッフが実際に「購買した決め手」「買わなかった理由」といった生の声をヒアリングすることで、より良い改善につながるはず。これまでトラブルやデータが取れないといった不測の事態も起きていません。

三浦 現地の「AWL Lite」が取得したデータから、展示場所を変えると商品の売れ行きにも変化があるかもしれないと提案したことがあります。

イザル ただ、展示場所を変えても人気商品は売れ行きに大きな影響がありませんでした。太田さんから共有される売上状況と、私たちの取得したデータの一致が見られたのは面白いと感じます。もっとお客様の行動分析をしたいですね。

金澤 例えば、入口に近い場所だから売れているというわけではなく、売上の高い商品はそもそも現地では人気という分析にもなりますよね。

金澤 健祐

日本大学商学部を卒業後、小売店などサービス業に従事し、AWL株式会社に入社。入社後は営業~AIの導入サポートまで幅広く担当。現在はプロジェクトマネージャーとして活躍。

アブダビプロジェクトでも事業面を支えるプロジェクトマネージャーを担当。

ー今回のプロジェクトを通じた手応えは?

イザル とても興味深くエキサイティングなプロジェクトでした。私たちのソリューションは、これまで日本のクライアントに向けて国内でデータを得てきましたが、国外で初めて自分たちの商品が使われたことが感慨深かったです。

三浦 私たちが普段提供しているサービスが、海外でも当たり前に通用するという大発見になりました。イザルを筆頭に多様な外国人材が在籍していることも、世界で戦う強みになると改めて感じた瞬間です。今回は、技術進行や翻訳を一手に引き受けてくれた彼の頑張りが大きかったと思います。

金澤 本当にイザルは大変だったと思います(笑)。ただ、三浦のいう通り国外でも同じ手法が通じると分かったのが大きな財産。個人的なテーマでもある「汎用性」についても、現地に僕らが赴かずとも遠隔で対応できることが分かったため、ファーストステップはクリアできたように思います。

太田 私たちJETROも手応えを感じています。日本の商品を海外でマーケティングするにあたり、これまでは明確な数値データを入手するのが難しかったというのが正直なところ。けれど、コロナ禍をきっかけに、JETRO全体としてデジタル技術を活用した企業支援サービスの質向上を重要視するようになり、明確な数値をもって企業にフィードバックする意義を感じるようになりました。その際、「AWL Lite」のような日本の最新技術を使うことで、さらなる展開も視野に入れられる…その可能性を感じた協業です。